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紅の記憶

 

薄紅色の空に蓋をする度
ぼんやりと景色が霞んでしまう
揺らいだ心がきしりきしり痛みだした

 

幼き日に誓ったのは
あなたとの婚約でした
意味など知らぬそれに
重みなどあるはずもなく

 

小さな花 不器用に作った指輪
あなたの指にはめた途端
するりするりとほどけました

 

夕闇の中消えたあなたを追って
小さくてひ弱な足が駆けていく
独りになるのがただ怖いだけなのだろう

 

幸せ綴るひとときを
疑うことなく受け入れ
意味など知らぬそれが
なぜか誇らしく思えた

 

なぜかあの日 胸が異常にざわついた
思い返せばそれだけが
声なき叫びだったのか

 

銃声が掻き消した命ひとつ
果実を摘み取るように容易く
咄嗟に抱き締めた腕の中 流るる紅

 

あなたを抱きすくめて泣きわめく中
鳴り止むことなく銃が轟く
次々と人が死んでいっても僕だけを残した

 


薄紅色の空に蓋をする度
ぼんやりとあの日を思い出している
揺らいだ心が指輪のようにほどけていく

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